火山性温泉

 日本の温泉地の多くは、千島、那須、鳥海、富士、乗鞍、大山、霧島という第四紀(約二〇〇万年前~現在)の火山帯に沿うように分布している。世界的にも、太平洋を取り囲む環太平洋造山帯、インドネシア、マレー半島からフランス、ドイツに至るアルプス造山帯など、火山が多く、またそのことから地震の多発地帯に温泉が湧く。

◇循環水説

 温泉の起源は、火山の元となるマグマの活動と密接に連動しているというのが、「循環水説」として有力な説である。雨水や雪解け水を温泉の起源とするもので、一八四七年にドイツ人化学者、ローベルト・ブンゼンが発表した。
 降った雨が大地の岩盤のすき間を縫って地下深く数キロから数十キロに浸透し、そこにある多孔質岩層に溜まる。これは文字通りの孔(あな)だらけの岩層で、スポンジのように水が浸透する。この岩層の下にはマグマ溜まりと呼ばれる七〇〇~一三〇〇度の高温の層がある。
 この辺りは私たちが暮らす地表を一気圧として、その五万倍、つまり五万気圧もの圧力があるため、熱せられても沸騰することなく、二五〇度前後まで温度が上昇すると考えられている。
 雨が降るなどしてここに次々と新たな水が浸透してくる。熱水は比重が軽いので押し出されるようにして地層の割れ目から地表に向かって上昇する。地表に近づくにつれて温度も圧力も下がるため、やがて水温が沸点に近づいていく。これが「循環水説」のあらましである。

 温泉の含有成分は、どんな地層を通って上昇していくかで変わってくる。その典型としてよくあげられるのが、長崎県の島原半島だ。島原半島には西から小浜温泉、雲仙温泉、そして一九九〇年に噴火した普賢岳を挟んで島原温泉が並んでいるが、これらはいずれも半島西部が面する橘湾の地底にあるマグマ溜まりが由来と考えられている。
 ただ興味深いことに橘湾に面した小浜が食塩泉、雲仙が硫黄泉、島原が重炭酸土類泉と泉質がきれいに異なり、マグマ溜まりに最も近い小浜の泉温が一〇〇度前後もあり、島原が四〇度台と最も低い。

◇マグマ起源説

 一八四七年、フランスの地質学者ジャン=バティスト・エリー・ド・ボーモンは、火山が発散する物質と湧出する温泉の成分に類似点があるとして、温泉はマグマから生まれたものだと主張した。
 その後、オーストリアの地質学者、エドアルド・ジュースは一九〇二年に、降水量と比較して温泉の湧出量が多いことや温泉成分の分析によって、ド・ボーモン同様、温泉は地下のマグマから上昇して来たものだとし、地球の内部から初めて地表に出てきたという意味から、これを「処女水(初生水)」と呼んだ。これは「マグマ水説」「処女水説」などと称されることもある。
 温泉には確かにマグマの成分がみられることもあるが、しかし現在は前述の循環水が大半の温泉の主体となっていることが知られており、「循環水説」をもって説明されるのが一般的である。

非火山性温泉

 温泉の起源には火山活動と無関係なものも知られている。事実、兵庫県の有馬、城崎、紀伊半島の白浜、湯の峰、南紀勝浦(ともに和歌山県)、十津川(奈良県)、四国の道後(愛媛県)など、日本を代表する古湯の周辺には火山はない。
 二〇一一年三月一一日に発生した東日本大震災は太平洋プレートと北米プレートの移動によるものとの説が有力だが、全国各地で温泉の温度が急上昇したり、湯量が増えたり、なかには泉質が変化したりと、非火山性温泉の存在がクローズアップされた。非火山性温泉の熱源として、以下のことが考えられる。
①他の天体の引力によって引き起こされる地球自体の潮汐 (干満=伸び縮み)で生じる摩擦熱
②地殻変動に伴う摩擦熱
③地殻やマグマに含まれる物質間の化学変化
④地殻やマグマに含まれる放射性物質による発熱
 有馬温泉についてはこれまで、その温泉水がマグマのガスと成分が似ていることから、地下に存在するマグマが起源である可能性も指摘されていた。だが、最近の研究では、この地域にはマグマはなく、海洋プレートに含まれている水がもとになっていることがわかってきた。
 西日本の地下に潜り込んでいるフィリピンプレート(海洋プレート)に含まれていた水が、有馬の地下の比較的浅い所で脱水(分離)して、それを熱源とした地下水が温泉として上昇して来ていることがデータ分析によって裏付けられたのである。
 このような温泉は近畿地方だけでなく、中部、東海、関東地方の一部でも見られる。

化石海水型温泉

 火山性温泉も非火山性温泉も、大昔から人知れずこんこんと自然湧出していた。ところがたとえば東京の都心で江戸時代から高温の温泉が湧いていたという話を聞いたことがあるだろうか?
 現在、東京で湧出している温泉は、大昔海だったところが造山運動などによって陸封された「化石海水」と呼ばれる、化石化された水である。ほかにも地下に浸透した雨水が特定の岩石や鉱物と反応してできる、主にアルカリ質の水もあるが、いずれももともとは“溜まり水”であった。
 これがなぜ、温泉と称されるのか? 詳しくは後述するが、現行の「温泉法」で①温度が二五度以上、②特定の成分を一定量以上含むこと・・・のいずれかを満たすものを温泉と定めたこと、特に①の「成分の有無にかかわらず二五度以上あれば温泉」との“定義”が化石海水を蘇らせた。
 地球は内部に熱を持っていて、深度が増すにつれて地温が上昇する。東京の場合、一〇〇メートルにつき二・三度、地温が上昇するという。東京の平均気温は一六・二度(二〇〇五年)なので、うまく水脈に当たれば五〇〇メートルも掘削すれば“天然”温泉が得られることになる。“掘削技術”という文明の利器によって、化石海水が温泉というブランドを得たのである。
 このような温泉は、溜まった水にストローを差して汲み上げているようなもので、やがては枯渇する可能性も大きい。一方で、地盤沈下など環境への影響も懸念されている。

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